民法改正概要

〇 意思能力

意思無能力者がした法律行為は無効とする判例が明文化されました。認知症などにより意思能力(判断能力)を有しない状態になった方がした法律行為は無効とされます。

〇 錯誤

勘違いをして契約をした場合、その勘違いが重要な点についての場合、契約を取り消せます。錯誤の効果が無効から取消しに改められました。
また、錯誤、詐欺とも善意無過失の第三者保護規定が整備されました。

〇 意思表示の効力の発生時期

隔地者という文言が削除され、対話者との間であっても、効力発生時期は到達時とされました。

〇 代理

代理の規定で、代理行為の瑕疵、代理人の行為能力、無権代理人の責任など改正がなされています。
本人及び代理人(法定代理人)が制限行為能力者である場合、一定の場合に取消しができるようになりました。これは制限行為能力者が法定代理人である場合に限定されています。
例えば、夫が妻の成年後見人である場合、夫が認知症を発症して夫自身も成年被後見人となってしまい取消しできないとなると、本人である妻も不利益を受けてしまいます。そこで、制限行為能力者が法定代理人となっている場合、取り消しをすることで保護することができます。

〇 時効制度

債権の消滅時効における時効期間と起算点は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、又は債権者が権利を行使することができる時から10年間行使しない場合、時効によって消滅すると改正されました。
また、短期消滅時効は廃止されています。
不法行為債権は、短期が3年、不法行為の時から20年間行使しないとき時効によって消滅するとされました。長期の20年間は除斥期間から時効期間であると明文化されました。
時効の中断が時効の更新に、時効の停止が時効の完成猶予に変わりました。

〇 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効

主観的起算点から5年間、客観的起算点から20年間が消滅時効期間とされました。

〇 根抵当権

根抵当権の債権の範囲で電子記録債権が明文化されました。

〇 法定利率

法定利率が変動制になり、年3%となりました。

〇 多数当事者関係

多数当事者関係では、連帯債権の明文規定、連帯債務における請求、免除、時効完成が絶対効から相対効に変わりました。

〇 保証人の保護に関する改正

保証人になることを主債務者が依頼する際の情報提供義務、主債務の履行状況に関する情報提供義務、主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務が新設されました。

極度額の定めのない個人の根保証契約は無効になります。貸金等債務から債務一般に保護の範囲が拡大されています。(根保証:将来発生する不確定な債務)
例えば、介護施設入居時の保証やアパートを息子が借りる際の親が保証人になったりする場合など極度額を定めていない個人の根保証契約は無効となることがあります。保証をする際は上限となる極度額に注意が必要です。

そして、事業のために貸金等債務について個人が保証人となる場合、公証人による保証意思確認手続きが設けられました。
これにより、事業のための貸金債務について、保証契約一カ月以内に、保証意思が公正証書で確認されないと保証が無効となります。
もっとも、借主である法人の取締役など一定の者が保証人となる場合、公正証書は不要です。

〇 債権譲渡

債権譲渡では、譲渡禁止特約から譲渡制限特約に変更されました。
変わった点として、債権譲渡では、譲渡制限特約付きであっても債務者の同意なく譲渡が可能となります。(ただし、預貯金債権は例外)

債務者による供託制度として、譲渡制限特約がついている債権が譲渡された場合、債務者は譲渡された債権に相当する金銭を供託することができます。これにより債務から免れることができるとしています。

〇 債務引受

債務引受では、従前の重畳的債務引受が変更され、併存的債務引受となり、従前の債務者は債務が免除される免責的債務引受とで分けられ、明文化されました。

〇 定型約款についての規定の新設

定型的な取引においては、約款を契約の内容とすることを合意した場合、取引相手が約款の個別の内容を認識していなくともみなし合意をしたとされます。例えば、インターネット上で利用規約の同意欄にチェックをつけることなどが挙げられます。
不当な条項が約款に含まれている場合、その条項の効力は無くなります。

〇 売買契約(危険負担)

危険負担とは、双務契約において一方の債務が債務者の責めに帰すべき事由によらずに履行不能となった場合、その債務の債権者が負う反対給付債務がどのような影響を受けるかという制度です。債権者主義の例外を廃止し、債務者主義に統一されています。
例えば、中古建物の売買契約を結んだ後、引渡し前に、建物が売主の責任なく地震によって倒壊して引渡しができなくなった場合、買主は代金の支払いを拒むことができます。

〇 売買における買主の追完請求権

引き渡された目的物が種類、品質、数量が合わず、または買主に移転した権利が契約の内容に合わない場合(契約の内容不適合)、追完請求、代金減額請求、債務不履行責任の追及が可能とされました。
これにより、売主は契約責任のトラブル回避からも不具合等は契約書に明記しておくことが望まれます。

〇 契約を解除するための要件の見直し

改正前では、契約の解除をするには債務を履行することができなかった者に帰責事由があることが必要でした。
改正後では、債務を履行しなかった者に帰責事由がない場合にも、相手方は売買契約を解除することができるようになりました。

〇 諾成的消費貸借

消費貸借につき要物契約と別で書面でする諾成契約(要式契約)が新設されました。諾成契約の場合、書面や電磁的記録(インターネットを通じてのやりとり等)によることが必要です。
書面等により金銭消費貸借契約を結んだ時は、実際にお金を借りる前は解約可能となります。

〇 賃貸借の存続期間の延長

建物の所有を目的としない土地の賃貸借の存続期間が50年に伸長されました。

〇 賃貸借終了時の原状回復義務

賃借人は、原則として原状回復義務を負いますが、通常損耗や経年変化の回復義務は負わない旨が明記されました。他に敷金の定義が明文化されています。

〇 請負人の担保責任に関する規定の変更

仕事の目的物が契約内容に適合しない場合、請負人の責任は原則として売買の規定が準用されることになります。注文者は請負人に対して目的物の修補等、代替物の引渡し、不足分の引渡し請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除を請求することができます。
なお、これらの請求は注文者が契約内容不適合を知ってから1年以内に請負人に通知する必要があります。

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