登記簿を取ってみると、古い抵当権が残っていたというケースもあるかと思います。明治時代や大正時代の担保権で実体上はもう無いような抵当権です。

古い抵当権(休眠担保権ともいいます。)を特例によって抹消する方法もありますが、相続人が多い、協力してくれない人がいる、債権額等が高額のため供託利用の特例が使えないなどケースによって訴訟手続きを用いることがあります。

 休眠担保権を抹消する訴訟は、担保権が設定されていたがすでに消滅しているということで訴訟を進めていきますが、一般的には時効消滅の方法を用います。 

抵当権者が自然人の場合

 抵当権者が自然人の場合、数十年前の抵当権となると相続が発生しているケースが多いです。そのため、被告が十数名ということもあり、被告全員に訴状が届くことが必要となってきますので送達手続きが一つの壁となります。

 抵当権者が自然人の場合、まず登記簿上の抵当権者の住所を調べます。

 抵当権者の住所は登記簿に記載されていますが、古い抵当権ですと抵当権者がその住所に住んでいない場合もあり、住民票が取得できないということもあります。その場合、本籍地が住所として登記されていることもありますので戸籍を取得して調べてみます。

 また、訴額がいくらになるかを調べます。訴額は、被担保債権額と不動産の評価額の2分の1を比較し、低い方の額が訴額になります。そして、訴状の附属書類に固定資産評価証明を添付します。

 裁判手続きで休眠担保権を抹消する場合、抵当権の被担保債権の弁済期より10年経過しているとし時効によって消滅していることを主張し、それに付随している抵当権も消滅という訴訟手続きを用いることが多いかと思います。

 被担保債権が時効消滅していることを理由として休眠抵当権の抹消を求める場合、被担保債権の弁済期がいつであるか特定する必要があります。

 この弁済期は、昔は登記事項であったため、閉鎖登記簿を取得しますと大抵は弁済期が記載されています。また、なかには途中で所有者と抵当権者が同一人となり混同により抹消というケースもあります。

 抵当権設定登記抹消登記手続請求の訴訟を提起しますが、一般的には訴訟物を「所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消登記手続請求権」として訴訟をします。

 また、判決が出た後の登記手続きのことも考えて、請求の趣旨に登記原因と原因日付を記載します。もっとも、判決上は主文に記載されないことが多いといわれています。この場合、判決の理由中には登記原因が明らかになっていればいいです。

 参考先例「判決書に登記すべき権利の変動の原因の記載があるときは、その原因により登記することができる」(昭29・5・28民甲938号民事局長回答)。

 注意点としては、判決を取っても法務局で登記が通るかどうかは別の話しということと、物件目録や登記目録は正確に記載しておくことです。また、訴状の当事者目録に抵当権者の相続人である被告全員の住所と氏名が記載され、その訴状が相続人である被告らに送られることも重要です。

 そのため、訴状がいきなり送られてくると驚いてしまいますので事前に案内文を送っておくことも検討します。

そして、訴状の請求の趣旨では、訴訟費用は「原告」の負担とすると記載しておき仮執行宣言を削除しておくようにして、事前に相続人の皆さんに説明をしておくようにします。